農業は、実に気の長い営みです。
どんなに痩せた畑にも育つというコマツナを例にとっても、種をまいて収穫するまで35日はかかるし、稲は120日、ネギは200日はかかります。朝鮮人参を栽培する農家が、日本にもありますが、こちらは5〜6年かかるそうです。
「有機農産物」や「オーガニック」と名乗れる野菜をつくるには、JAS法(日本農林規格)で、厳密な条件が定められていて、作付時から遡ること2年間、いっさいの化学肥料と化学農薬を使用しないことが要件の1つです。しかも、その圃場・栽培状況については、国認可の第三者機関による検査と認定も求められています。この規定は
00年 4月から実施されていますが、法改正の過程で問題の期間は、3年についても検討されました。
ついでながら、「有機」を名乗れるまでの移行期間中の作物については、「特別栽培農産物」と呼ぶことになっています。
肥料や農薬が土壌中でどう化学変化するかについては、科学的な調査が行われる必要があります。法律は「有機」と呼ぶ前提として、以前使用された化学農薬は2年間で分解すると判断したことになりますが、最近の農薬は激烈ではなく土壌への残留性も弱いものになっているとはいえ、分解についての判断は、必ずしも厳密な科学的データに基づいているとはいえなさそうです。
肥料が土壌中でどうなるかについては、農薬の残留性などとはちょっと話が違います。どう分解されるかと言えば、有機肥料の有機質は微生物に分解され(良い土壌中には1グラム中に1億個もの微生物がいるといわれる)、ほとんどN(チッソ)、P(リン)、K(カリウム)=肥料の三要素=など無機の形で植物に吸収されます。それら有機質は、土壌中で数週間からモノによっては数年がかりで分解されます。
農薬も肥料も、長いスタンスで効果や分解を見なければならないのです。
そうした問題意識での長期研究として知られるものに、英国ロンドン近郊にあるロザムステッドの国立農業研究所による、有機肥料と化学肥料の施肥効果を見る研究があります。
50年間も続けられた研究として、もう30年も前に日本の有機農業研究誌で紹介されたそうです(拙著「甘夏に恋して」の第6章)から、いまも続いていれば80年もの長期研究になるわけです。
研究は「A:化学肥料区」「B:堆肥区」「C:化学肥料プラス堆肥区」「D:無肥料区」の4試験区を設け、作物を栽培し続けその結果を比較するもので、長期的に収量・品質が良かったのは、C→B→D→Aの順。
化学肥料は初め12〜13年ぐらいまでは他を圧倒して良い結果だったのに、その後、右肩下がりとなり、ほどなくC・Bより悪くなり、42年目以降は無肥料区より悪くなり、50年目でまったく収穫できなくなったというのです。50年目の土地は砂漠と同じ状態だといい、これでは植物は芽も出さないでしょう。
日本でも、ある県の農業試験場が、無肥料による稲と麦の収量の経年変化を調べる実験を、同じ水田で100年も続け、面白い結果を出しています。結果を1つだけ見ておきましょう。稲の収量が無肥料区で、1955年から1973年にかけそれまでの低位安定から急上昇を続け、その時期の20年間弱で2倍以上にも増えたのです。これは灌漑水の富栄養化が物凄い勢いで進んだためと見られます。近年収量はそのときのレベルよりかなり落ちましたが、これは上水道の整備などで水の浄化が進んだせい? でしょうか。
農業不振の日本にも、100年研究があるという事実のみ紹介し、詳しい調査研究結果は後日レポートすることにします。
(04年2月22日 宮崎記す)
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