日別アーカイブ: 2021年12月5日

謡曲「鐵輪」(かなわ)

12月5日/

◆<祈祷師も 鉄輪の業火 鎮め得ず>

・ある夜、貴船(きぶね)神社(京都市左京区鞍馬貴船町)の社人に”お告げ”があった。丑の刻(午前2時頃)参りをする都の女に霊夢にあった神託を伝えよ、と。真夜中、女が現れる。女は自分を捨てて後妻を娶った夫に、報いを受けさせるため、遠い道を幾晩も貴船神社に詣でていたのだ。社人は女に、赤い衣を着て顔に丹を塗り、三つの脚に火を点けた鉄輪(五徳)を頭に載せ、怒る心を持つなら、たちまち鬼神となると神託を告げた。女とやり取りするうちに怖くなった社人は逃げ出したが、女が神託を夢想するや女の気色が変わり髪が逆立った。雷雨の中、女は恨みを思い知らせてやると言い捨て離れ去った。

・女の元夫、下京辺りに住む男が連夜の悪夢に悩み、有名な陰陽師、安倍晴明を訪ねる。晴明は、先妻の呪いにより汝の命は今夜尽きると占う。男の懇願に応じて、晴明は彼の家に祈祷棚を設け、夫婦の身代わりの人形(形代)を載せ、呪いを肩代わりさせようと祈祷した。そこへ脚に火を点けた鉄輪を頭に載き鬼となった先妻が現れる。 鬼女は捨てられた恨みを述べ、後妻の形代の髪を打ち据え、男の形代に襲いかかる。しかし、神通力は弱まり、「時節を待つ」と言って姿を消した。

・(解説)ネット「the-Noh.com」によると・・・女の恨み、嫉妬心の恐ろしさを、禍々しい鬼の姿で表現する能です。丑の刻参りでかけられた恨みの呪いを祈祷ではね返す、呪術の力を示す話とも言えます。しかし嫉妬の鬼の前では、稀代の陰陽師、安倍晴明も影が薄いようです。鬼女は撃退されますが、一時力を失っただけのようで、いつ機会をうかがい現れるか知れません。力強い陰陽師の存在感もかすむほどの、捨てられた女の凄まじい恨み。それを緩急鋭い謡や囃子と、なまなましい型で伝えます。貴船神社は、京都市中心部から北へ外れた鞍馬の山にあります。町中に住んでいただろう女が、通うには大変な距離で、それだけでも異常です。女の恨みのほどがわかります。