謡曲「巻絹」

12月10日/

◆<梅の香を 帯びて巻絹 馥郁たり>

・時の帝に霊夢があり、三熊野に千疋(せんびき)の巻絹を奉納せよとの宣旨が出される。その命を受けた勅使は、全国から集まった巻絹を神前に奉納しようとするが、都からの使者だけが着かずじれている。都の使者は途中で音無天神に参り、梅の香に心を奪われ神へ祈りの和歌を手向けていたのだった。

・そしてようやく本宮に着くと、献納が遅れた科を責められ、勅使に縛り上げられる。そこへ音無天神の霊である巫女が現れ、使者が手向けた和歌によってわが苦しみは救われたのだから、縛(いましめ)を解きなさい、と勅使に命じる。勅使は賤しい身の使者が歌など詠めるはずがないと疑うが、使者が詠んだ上の句に、巫女が下の句をつけると、その確かさがわかる。使者は縄を解かれ自由の身になった。

・巫女は和歌の徳を称える舞を舞い祝詞をあげる。そして物狂いし、御幣を乱し、飛び上がり地に躍り、狂い舞った。そののち憑いていた神が上がらせられたと言って、巫女は正気に戻ったのだった。

・巻絹とは、巻いた絹の反物のこと。質のよいものが献上品とされた。


・(解説)ネット「the-Noh.com」によると・・・・この曲の舞台は紀州の山中にある熊野本宮。清々しい自然に囲まれた聖域で演じられる神秘的な物語は、見る人の心を寛がせて深く広げ、郷愁とも、懐かしさとも呼べるような不思議な感情を呼び起こすでしょう。

大切な巻絹を届けることは二の次で、和歌を詠み、神に捧げることを優先した都の使者の心がけは、神に愛でられました。一方、世の中の決まりごとに縛られる勅使は、都の使者を縛り上げたことを神にやんわりといさめられ、決まりごとや思い込みだけではない、和歌を詠める心のあり様の素晴らしさに気づかされるのです。古来日本では、和歌には神秘的な力があると思われてきました。そこにこのような曲ができた背景があるかも知れません。この和歌の徳を賛美して、巫女が舞いながら、次第に神がかりの勢いを増していく、クセから神楽、キリへと続く一連の場面は大きな見どころです。

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