日別アーカイブ: 2021年11月23日

謡曲「安達原」

11月24日/

◆<安達原 庵で紡ぐ 鬼伝説>

▼那智東光坊の阿闍梨・祐慶を名乗る山伏は供を従え諸国行脚をする。▼奥州安達原に着くと日が暮れ、火の光の洩れる庵があり一夜の宿を乞う。住人の老女は断るが、一行を憐んで泊めてやる。▼一行は屋内にある見慣れぬ道具に気づく。老女は、それは枠桛輪わくかせわと言い、身分の賤しい女が使う糸車だと教える。▼山伏が使うところを見せてくれと頼むので、老女は恥じながら糸を繰って見せた。そして己の浮世の明け暮れに思いを馳せた。

▼さても、糸と言えば [光源氏] の日蔭の糸の冠、加茂の御生(みあれ)に飾る [葵祭] の糸毛の車。春の盛りの糸桜、秋の月夜の糸薄(すすき)と華やかな糸は数多ある。▼さりながら、老女は自分の人生は長くつれないもので、泣き明かしていると嘆いた。▼ややあって「宿僧達に申し候」と老女。「夜寒となった。焚火をして差し上げたい。上の山へ行き木を切ってくるので、帰るまで閨(ねや)の内は決して見ないで」と言って出かけた。

▼そう言われて見たくなるのが人間 の性。山伏の従者が閨を覗いたら、人の死骸が山のように積み重なっていた、と言う。山伏祐慶は、ここは安達原の黒塚に籠る鬼の住家だったかと驚き、一行は一目散に逃げだした。▼後ろから鬼の正体を現わし鬼女が迫ってきた。約束を破られて怒りの焔に胸焦がし、一口に喰ってしまおうと。▼鬼女と山伏達は激しく戦う。しかし鬼女はやがて山伏の法力によって祈り伏せられ、たちまちのうちに弱り果てた。黒塚に隠れ棲んでいたが、身が露わになってしまい、この姿はあさましく恥ずかしいと叫びながら夜嵐の音に紛れて消え失せた。

◎平安時代以来、「安達原には鬼が棲んでいる」という伝説が語り継がれているといいます。『拾遺和歌集』(平安時代に成立)には次の歌があると。<陸奥みちのくの安達が原の黒塚に 鬼こもれりと言ふはまことか>